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気まぐれ指数

Kindle版があったので久々に読みたくなって購入した星新一「気まぐれ指数」。
アマゾンのレビューではあまり好評とは言い難い感じだったが、私は結構気に入っている。正直なところ星新一のショートショートは思春期取り付かれたように多読したが、今覚えているのは長編のこれくらいだ。
時は東京タワーができたもののまだ他のテレビ塔も3つ残っていたころ、場所は東京タワーが見える山の手。
主な登場人物は没落華族の未亡人、大地主のバツイチ神主(節税のため神社を作った)、犯罪評論家、化粧品セールスガール。みな独身子なし。ほんわかした生活感のない気楽な人たち。そして内容は洒落た軽い感じのちょっとしたコンゲームのお話。
しかも文体が装飾を省いたクールな星新一文体なのだから、当然な如く洗練された都会派東京小説に仕立て上がっている。お馴染みのさりげない当世批評も織り交ぜて。
当時から半世紀経った今読み返しても古臭さは感じなく、温和な礼儀正しい登場人物の作り出す世界はファンタジーのよう。でも当時のある種のリアリティは確実にあるのだと思う。
なるべく風俗的な描写は避けストーリーと会話に重点をおいたうえにKindle版の元になった2010年発行の第43版(人気作だったのだ)では、さらに古びた部分はカットしたらしいが、雰囲気溢れた実に優れた昭和の東京小説である。これ一作で風俗小説の才能は使い果たしてしまったとはあとがきに書かれた本人の弁だが、この路線がこれ一作なのは何と惜しいことだろうと思うのだった。

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