ドートマンダーの前に突然現れたのはかつて同房者トムだった。
一生刑務所暮らしに思われた男だったが収容人員超過のため70歳の誕生プレゼントで恩赦が与えられたのだった。
トムの依頼は老後のために棺の中に埋めて隠していた70万ドルの回収。こともあろうにその土地はダムができたため水の底に沈んでしまったのだ。そして金を掘り出すためトムはダムを破壊しようと考えているのだった。
が、大惨事になってしまうのを恐れたドートマンダーは怪しげなダイビング・インストラクターのダグを雇い自ら(もちろんケルプと)水の中に入ってまでして、何とか穏やかに金を回収しようとする。
しかし透明度はないし、色々問題が生じる上、水はやっぱり恐ろしい! さすがのドートマンダーも今度ばかりはギブ・アップか?
何といってもタイニーも恐れる冷酷非情、通った後は荒廃しか残さない男トム・ジムソンの存在が強烈です。
ドートマンダー・シリーズではかつてなかったキャラクターです。それ故に全体的には異色作という感じがします。そしてトムの娘で夢見る乙女のミルトルもハラハラさせてくれます。
新しもの好きのケルプの今回の趣味はパソコン。そしてコンピュータおたくのウォリー・ナーも重要な役どころで登場します。ケルプの趣味はPCからダイビングに変わっていくみたいです(ドートマンダーはダイビングでなくあくまでも水底を歩くんだと主張していますが)。
色々な要素を詰め込みすぎた感はありますが、ストーリー展開の面白さ、作戦のスケールいずれも申し分なしだと思います。なんで翻訳版が出なかったのでしょうか。今からでも遅くないので日本語版を出版してもらいたいものです。
そして一部だけですが、この本の翻訳が読むことができます。しかも訳者は木村二郎氏。それはジョー・ゴアズの「32台のキャデラック」でお互いの登場人物が出会う珍妙なシーンについてそれぞれの立場から書かれているのです。この場面ではドートマンダー一味のおまぬけぶりが堪能できます。